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札幌高等裁判所 昭和22年(ネ)31号 判決 1948年6月22日

控訴人

長野德一

外三十五名

被控訴人

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負擔とする。

請求の趣旨

原判決は之を取消す本件を原裁判所に差戻す。との判決か、又は被控訴人は別紙目録(原判決に記載してある目録)記載の土地につき控訴人淸水大藏同村上格市の所有地に對し、昭和二十二年五月二十六日なしたる買收は之を取消す。その餘の控訴人等の所有土地に對し買收すべからず。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負擔とする。

事實(省略)

理由

被控訴人が農地調整法第十七條の二第三項及び同法施行令第四十六條の規定によつて、旭川市を旭川市旭川地區と旭川市旭新地區の二地區に分け、各地區に地區農地委員會を置き、これを昭和二十二年一月八日北海道廳告示第十六號を以て告示した事實。右二地區に分けられたため、旭川市に居住し同市に農地を所有する控訴人等が、いずれも自作農創設特別措置法により不在地主となつた事實、控訴人淸水大藏、同村上格市が、其の所有に係る農地を同法により昭和二十二年五月二十六日買收せられ、同年六月二十一日買收令書の交付を受けた事實及び其の餘の控訴人等所有の各農地が同法により買收必至の状態にある事實は、いずれも當事者間に爭のないところである。そこで先ず旭川市を二地區に分けた行政處分の取消を求めることが出來るか否かを判斷する。新憲法及び裁判所法が施行された昭和二十二年五月三日以降の行政處分について裁判所に訴を提起できることは明らかであるが、兩法施行前の行政處分については疑問なしとはしない。民事訴訟法の應急的措置に關する法律第八條には行政廳の違法な處分の取消又は變更を求める訴は他の法律(昭和二十二年三月一日前に制定されたものを除く)に特別の定のあるものを除いて、當事者がその處分があつたことを知つた日から六ケ月以内にこれを提起しなければならない。但し處分の日から三年を經過したときは訴を提起することができない。と規定し、更にその附則にこの法律は昭和二十三年一月一日からその効力を失うと規定しているが、これを憲法施行後の行政處分について出訴期間を定めたものと解するならば、應急的措置に關する法律が効力を失う後迄の期間に亘り出訴期間を定めたことになり、妥當な解釋ということが出來ない。同法は憲法施行後の行政處分ばかりでなく、施行前の行政處分でも出訴期間内ならば訴の對象となすことが出來る、と定めたものと解するを相當とする。從つて、憲法施行前の行政處分でも、憲法施行前三年以内になされた行政處分に對しては取消又は變更の訴を提起することが出來るものといわねばならない。今本件について見ると、旭川市を二地區に分けたのは前段認定のように昭和二十二年一月八日であるから憲法施行前であるが、出訴期間内の處分であるからその取消を求めるため、控訴人等が提起した本訴は適法のものといわねばならない。よつて進んで右の行政處分が控訴人の主張するように農地調整法に違反するものであるかどうかを檢討するに、農地調整法第十七條の二第三項には「地方長官特ニ必要アリト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依り市町村ノ區域ヲ二以上ノ地區ニ分チ市町村農地委員會ニ代へ各地區ニ地區農地委員會ヲ置クコトヲ得」とあり、その命令たる同法施行令第四十六條第一項には、「市町村ノ區域又ハ當該區域内ノ農地面積ガ著シク大ナル市町村其ノ他特別ノ事情アル市町村ニ付テハ地方長官ハ當該區域ヲ二以上ノ地區ニ分チ各地區ニ地區農地委員會ヲ置クコトヲ得」と定められている。故に地區に分つについては行政廳に裁量の餘地を與えているが、專恣的行爲を許してはいけない。農地調整法や同法施行令の規定の拘束を受けるのは勿論一般に肯定せられた法律上の原則に服することを要する。控訴人の主張するような急激に膨脹發展した都市が隣接町村を併合したが、事實上は元の町村役場を市役所の出張所として存置し、併合前と同樣の區別あり、しかもその併合が最近の出來事であるような場合が、右の特別の事情ある場合に該當するのは異論がなかろうが、そればかりでなく、これと同じ情況にある同一市町村内に二つ以上の農業會又はその支所或は出張所がある場合も亦、特別の事情あるものと認めるのを相當とする。被控訴人が旭川市を二地區に分けたのは、元東旭川村から旭川市に合併した地域と、元永山村から合併した新旭川の地域一圓を旭川市旭新地區とし、その餘の旭川市の地域を旭川市旭川地區と定めたのであつて、東旭川村から合併した地域には今なお農業會支部があることは當事者間に爭がないから、合併後も東旭川村の農業會支部は合併前と同一の状態にあることを推認できるので、かかる場合は特別の事情ある場合に該當すると認め得る。しかして、合併市町村において一つの市町村農地委員會では事務處理が困難であることは當事者間に成立について爭のない甲第一號證に徴し明かであるから、合併前の區域に農地委員會を置くのは農地改革を急速且つ圓滑に遂行する所以であつて、旭新地區に農地委員會を設ける必要のあつたことを肯認するに難くない。控訴人は右分區は農民組合の運動に聽從したものと主張するが、成立に爭のない甲第二乃至第七號證を綜合すれば、農民組合が運動をしたことは窺知できるが、この運動によつて被控訴人が分區處分をなした事實は未だ認められない。その他控訴人の全立證を以てするも、右事實はこれを肯認できない。果してそうだとすれば、被控訴人が旭川市を二地區に分けたのは全く法規に適應した適法な處分で、從つて本件分區處分に基き控訴人等の所有土地が買收處分を受けるとしても、不法に所有權を侵害するものということは出來ないから、憲法に違反する處分だといえないことは多言を要しない。

かように判斷してくるならば、分區處分により控訴人等は不在地主として農地の保有を認められなくなるから、在村地主たることを前提として保有面積の狹少を攻撃する請求は勿論のことであるが、右の分區處分の違法を理由そして買收處分の取消を求める請求も、買收の禁止を求める請求も、理由のないことは自ら明かであるから、いずれもこれを棄却すべきものとする。原審判決の理由は叙上の説明と異るが、控訴人等の請求を棄却した點において同一趣旨に歸し、結局原判決は相當であるから、民事訴訟法第三百八十四條第二項、第八十九條、第九十五條を適用し、主文の通り判決する。

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